好きだと言って。



沈黙のあと、口を開いたのは王子だった。




「…てねぇよ。」


「は?」


「ほんとは、捨ててねぇよ。」



目は合わさず、ぶっきらぼうな言い方。


だけど、今の言葉にあたしは一気に笑顔になった。



「ほんと?!」



嬉しくなって、ぐっと王子に近づくと、ちらっと目が合いまた視線をはずされた。


心なしか、王子の顔がまた赤くなった気がした。

俯いて口元を手の甲で隠していて、王子がどんな顔をしているかわからなかった。




「…これ。」



ポケットからキーホルダーを出す。


ちらりとあたしの顔を見るなり、気まずそうに視線を逸らして手を差し出す。



「…ありがとう。」



もとはといえば王子が悪いのだけれど、晴くんからもらったキーホルダーが自分の手のひらの中にあるのを実感しただけで、すごく優しい気持ちになれた。



この時、思えばあたしは初めて王子に笑いかけたかもしれない。




「ありがとね。」


「…あっそ。」



キーホルダーをギュッと握りしめ、顔を上げて王子に言った。



一瞬目が合うと、頬を染め、ムスッとしたような顔であたしから視線を逸らす王子。



手のひらにあるキーホルダーに夢中で、王子が「ちくしょう」なんて小さく呟いていたことに気づかない。


嬉しそうにキーホルダーを見つめるあたしを、切なそうに見ていた王子に…あたしは気づかない。


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