好きだと言って。



気がついた時には、そんな言葉がでていて、二人とも少し驚いたようにあたしを見ている。



だけど、王子はすぐにいつもの表情(カオ)に戻ってニコリとあたしに笑いかける。



「何か用でも?」


丁寧な軟らかい口調。

だけど、どこか冷たい。


「な、にしてるの…?」


確かめたかった。

なんでこんなことしてるのかを。


王子は、鋭く冷たい眼差しをあたしに向け、男子生徒を踏む。


「なにしてるって…」


痛みに懸命に耐える男子。

「見てわかるでしょ?」


冷たくて、冷たくて、王子が王子に見えなかった。


「いじめ」


愉しそうに口元を上げる彼が、悪魔にしか見えなかった。


「あんたさ…俺に逆らう気じゃないよね?」


あたし視線を移し、一歩一歩こちらに近づいてくる。

今の彼に信じられなくて、今この状況自体信じたくなくて、一気にいくつものありえないことが目の前にあって、あたしはうまくそれを整理することができなかった。



気付けば、あたしは体育館の壁に背を当てていて、目の前には彼が立っていた。

あたしは、気付かぬうちに壁に追いやられていたんだ。



「…あんた、よく見れば可愛い顔してんじゃん」


王子が口の端をあげて、愉しそうにあたしを見下ろす。


距離は近い。

こんなに綺麗な顔を間近で見たら、女の子は一発で彼に堕ちるだろう。



「口止め料…いくらがいい?」



色っぽい仕草、胸に滲みるような心地のよい声。

形のよい唇が、あたしを誘う。



「いくらでも払うよ…?」

追い詰められたあたしには、もう逃げ場はない。


あたしも堕ちるのかな…


それとも、堕ちるしかないのかもしれない。


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