好きだと言って。


初めて遭遇してしまったいじめの現場。


初めて人を叩いてしまった。



震える手。唇。


麻痺するのは、頬の筋肉。


自分より背の高い王子に。

自分よりがっちりとした身体に。



なにより、あたしは目の前の冷め切った瞳をした王子に膝が震えていたんだ。



ちょっと数秒まで王子様だったのに。


今目の前にいるのは、ただのいじめっこじゃないか。


そんなこの男を、晴くんと重ねてたなんて。


少しでも好きだと思ってしまったなんて。



ぎゅっと目をつむった。


だって、あまりに信じられなかったから。


学園の王子様が、こんなことするなんて…




王子がその場にいなくなるまで、あたしは立ち尽くしているしかなかった。


_
< 54 / 56 >

この作品をシェア

pagetop