My girl
◆真っ黒な背中
「おかえり、未来に美桜ちゃん」
バーで開店の準備をしているオヤジの前を通り過ぎる。
いつもより綺麗に片付いている店内
透明に近い程、透き通るように磨かれているグラスに
カウンターに落ちる照明を柔らかく反射するテーブル。
「仕事が終わってから、来るそうだよ。未来も美桜ちゃんも7時には家にいるように」
――おいしいご飯、作っておくから。
どこか
そう嬉しそうに話すオヤジに
美桜の母親に対する愛の大きさを測っているように見えた。
美桜と咲良さんがこれから暮らす部屋は、もちろん母さんが使っていた部屋だ。
西向きで、夕方には夕焼けが差し込みオレンジ色に染まる部屋。
バーが開店する前、オヤジとふたり寄り添って
夕日を見つめる背中が今もまぶたに焼き付いている。
どんな表情とか
何を話しているかとか、
廊下からただふたりを見つめる俺には分からなかったけど……