My girl
逃げても、逃げても“ゴール”みたいな“完全に”安全な場所なんて、どこにもなくて。
ラブホテルに逃げ込んだのも
一時的な目くらましにしかならない。
あの時に逃げ切れたのは、ただ運が良かっただけ。
夜だったのと……駅周辺、ネオンの街のような独特な入り組んだ路地。
ここは学校だ。
下手な真似して、この人を挑発したら……今度こそ逃げられない。
それどころか、学校中が俺と美桜目の前で笑うこの人物との関係を怪しむだろう。
「別に……ミオの様子を見に来ただけだ。楽しそうにやっているかって」
――イヤらしい目つきで、美桜を見るな。
ニヤニヤしやがって。
でもここは……抑えなければいけない。
――挑発してはいけない。
「美桜を保健室に連れて行かなきゃいけないので、じゃあ」
軽く会釈をして、くるりと前へと向き直る。
まだ怯えるように必死にしがみついてくる美桜を安心させたくて。
「美桜は俺が守るよ」
背中に突き刺さる冷たい視線を感じながら、俺は保健室へ急いだ。
――『ミオ、また会いにいくから俺の…ミオ……』
フェンスの向こう側の呟きは
未来、ましてや美桜の耳に届くことなく……
空に消えていった。