Tea Time Romance
 白いカップに、彼女の口紅に似た紅が映える。
 こころもち緊張しながら、彼女のテーブルへと運ぶ。そっとティカップを彼女の前に差し出し、反応を見る。

 おや、というような表情を浮かべ、彼女は瞳を僕の方に向けた。

「……ミントを切らしていて……あなたの口紅の色にあわせたつもりなんですけど」

 何か言われたら即座に取り替えるつもりだったけれども。
 でも彼女は何も言わず、カップに唇を近付ける。一口ハーブティをすすった後、黒目がちな瞳が涼しげに微笑む。

「いい香りね」

 そしていつものように、代金ぴったりのコインをトレイの中に置き、また読みかけの本を手に取る。

 緊張が解けたと同時に、僕の中に何か別の想いが芽生えていた。アルバイトを始めて二週間目の事だった。
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