甘い魔法―先生とあたしの恋―
好きだったあの頃の啓太がもういないのは、分かってた。
啓太にあたしへの気持ちがない事だって分かってた。
でも……
信じたかった。
信じていたかった。
信じてれば、きっといつかって……そう思ってたのに……。
いつか、啓太は優しさを取り戻して、『実姫』って笑い掛けてくれて。
信じてれば、出て行っちゃったお母さんも、いつか『ごめんね』って帰ってきて。
お父さんも家庭を大事にするようになって……、
そしたら、『気にしないで』って。
笑って許せると思ってたのに……
そう、信じてたのに―――……っ
信じてたって、なんにもならないんだ。
もう、ダメなんだ。
啓太も、お母さんも、お父さんも……もう変わらない。
もう……戻らない。
もう、
信じてたって、ダメなんだ―――……
着きたくなんかなかったけど、でも帰ってくる場所なんて他になくて。
乾いた涙の跡を拭ってから寮に入った。
食堂の電気はもう消されていて、階段の電気だけが心細く灯っていた。
ペットボトルを冷蔵庫に入れてから階段を上る。
一段上がるごとに、ギシっと鳴る階段の音が耳を抜けていく。
寒さも温かさも、音も……何も感じない。
今まで見ないようにしてきた嫌な事が、全部一気に事実だと突き付けられて……
受け止めるので精一杯だった。