甘い魔法―先生とあたしの恋―
「また……あいつか?」
矢野の言葉が、あたしの涙と一緒に木の床に落ちて吸い込まれていく。
もう……もう、やだよ。
つらいのとか……
もう、疲れた―――……。
信じる事にも
見返りも求めずに、ただ待ち続ける事にも
学校で成績をキープしていい子をするのも
寂しいのを我慢するのも
『いつか』、そんな漠然とした未来に期待するのも……
もう、全部……
全部に、疲れた―――……
「……っ…ふ…」
ぎゅっと閉じた瞳から、大粒の涙が零れ落ちる。
自分の中の何かが崩れていく。
本当はもっと前から崩れていたのかもしれないけど……
今、初めて気付いた。
音を立てて崩れ落ちる気持ちに。
涙腺が壊れたみたいだった。
目が、瞼が、身体が、熱を帯びる。
自分が情けなくて、悔しくて……涙が止まらなくて……
「……市川」
啓太の言葉ばかりが繰り返し響く頭の中。
自分の泣き声ばかりが聞こえてくる耳。
そんな中で、矢野の声は掻き消されてく。
矢野の前だとか、そんな事はもう気にもならなくて……ただ、泣く事しかできなかった。