甘い魔法―先生とあたしの恋―
そして、その音に不安が過る。
……やばい。
矢野にうるさいって怒られるかも。
あきらかに神経質っぽかったし……。
だけど……そんなあたしの不安とは違う、もっと大きな事件が、目の前で起きた。
奥の壁にぶつかって止まるハズだったケース。
だけど、事もあろうにケースはそこに留まらずに、壁を……壁を……。
――カランカラン。
そんな寂しそうな音が、小さく響く。
落ちたのは、木の破片。
……今まではクローゼットの奥の壁だったモノ。
カーリングの石みたいによく滑ったケースは、あたしの視界からは消えていた。
壁だったハズの視界が、一気に明るくなる。
いや、壁が薄いのは知ってた。
部屋に入った時から、隣の矢野の立てる物音とかがよく聞こえてたから。
だけど……
だけどさ……
「おまえ……何やってんだよ……」
決して壁越しじゃない、矢野の声が聞こえてくる。
あたしはただ黙って……この状況を疑っていた。