甘い魔法―先生とあたしの恋―
【矢野SIDE】
「矢野セーン、見逃してよー」
授業中に取り上げたケータイを持つ俺に、生徒が泣きつく。
「俺だって面倒だし没収なんかしたくねぇよ。
……仕方ねぇだろ、他の先生も見てたんだから」
まだ新米だからか、それともこの髪のせいで問題児扱いされてるからか、俺の授業には時々他の教師が立ち会う。
いつもなら見逃してやるとこだったけど、今日は運悪く口うるさいベテラン教師が立ち会う授業中に生徒がケータイを落として。
内心、面倒くせぇと思いながらも没収した。
「担任に渡しといたから。多分帰りのHRで返してもらえるんじゃねぇ?」
職員室を出ると、まだ粘って俺を待っていた生徒にそう告げる。
「えー……マジで渡しちゃったの?」
「だからしょうがねぇだろ。次からは落とすな」
「……持ってくんな、じゃなくて?」
「分かってんなら持ってくんな。……って注意したってどうせ聞かねぇくせに」
まったく反省の色を見せずに笑う生徒に呆れ笑いを浮かべてから、渡り廊下を渡る。
柔らかく吹く穏やかな風に足を止めそうになりながら、無理矢理進める。
渡り廊下が生徒の溜まり場になってる事は知っていたから。
あまり生徒と仲良くしてるとベテラン教師に睨まれるし。
……大人の社会って面倒くせぇな。
そんな事を考えながら足早に数学学習室まで来て、ドアを開けて……映った光景に、俺は目を疑った。