甘い魔法―先生とあたしの恋―
一番右、自分の机に生徒が突っ伏していて……。
ありえない光景に眉を潜めながらもその生徒に近寄る。
窓から差し込む太陽の光に背中を照らされている生徒の顔を覗き込んで……、苦笑いを逃がした。
「……何やってんだよ、こいつ」
市川である事を確認して、見なれた顔に少し安心してから、市川の傍にあるプリントに視線を移す。
とりあえず、市川が集めたプリントをここに提出しに来たのは分かる。
「だからってなんで寝てんだよ」
小さくため息をつきながら、持っていた教材を机の端に置いて、市川の眠る机に浅く寄りかかる。
3階で、しかも南側に位置するこの部屋は日当たりがいい。
俺だってうとうとする事はたまに……いや、よくあるけど。
「普通教師の机で寝ねぇだろ」
いい加減独り言も虚しくなって、また小さく息を吐いた。
中校舎に集まる部屋は、各教科の学習室に、資料室や化学室っていう移動教室でしか使わない部屋。
だから、昼休みのこの時間は静まり返っていて、市川の寝息だけが俺の耳に届く。
起こすべきか、放っとくべきか……いや、どう考えても起こすべきだろ。
そう思って口を開くものの……市川の寝顔に言葉が詰まる。
落ち着いて眠る横顔が気持ちよさそうで……茶色く染められた髪が太陽の光で透けていた。
下ろしたままの髪が肩から滑り落ちて顔にかかっていて。
くすぐったそうに見える髪を、少しためらいながらすくい上げてやる。