甘い魔法―先生とあたしの恋―
市川の寝顔に……こないだの泣き顔が頭を過ぎる。
思い出される市川の涙に、俺は顔を歪めて、市川の髪を軽く撫でた。
目の前で眠る市川が、痛々しくて。
父親や彼氏を思う市川が、いじらしくて切なくて……。
髪を撫でる手に小さく力が籠った時―――……
「ん……」
聞こえてきた声に、慌てて手を離した。
……でも、市川の瞼は下ろされたままで。
「寝言かよ……びびらせんなよ」
ほっとしてため息を漏らして……そして、さっきの自分の行動に、片手を額に当てる。
つぅか、俺、何やってた……?
……こいつ、生徒だろ?
どうかしてると、大きなため息を吐いて息を吸い込むと……微かに市川の香りがして、俺をまた動揺させた。
こないだの夜の事も、教師としてやりすぎな事は気付いていた。
帰宅時間を注意したまでは良かった。
だけど、その後の行為は……どう考えても、教師として取るべき行動じゃない。
抱き締めて、泣き止むまでそうしてたなんて……教師じゃなくて、恋人のする事だろ。
……でも。
放っとけなかった。
適当に慰めて、『1人で抱え込むなよ』なんて教師らしい言葉を掛けて、そのまま……なんて、無理だった。
涙を溢れさせて何も言わずに震える市川を抱き寄せないなんて選択肢、あの時の俺にはなかった。
愛情なんかじゃない。
でも、同情でもない。
ただ、市川が儚く脆く見えて、それ以外の選択肢が浮かばなかっただけ。
悪い事だとは思わなくても、でもやっぱり教師としては間違っていた行動に、反省しながら天井を仰いだ。