甘い魔法―先生とあたしの恋―


to.啓太
sub.
――――――――――

もう別れよう。

ばいばい。


――――――――――




送信メールの確認画面で、あたしの手は止まっていた。


後は送信を押すだけなのに……なかなか気持ちの整理がつかない。

とっくに整理したハズの気持ちが、また散らかり出す。


『嘘つかれても何されても信じようとするのは……』

さっきは返せなかった矢野の言葉に、あたしは表情を歪ませた。


嘘なんて……あたしだって嫌い。

嫌い、だけど……信じてたかったんだもん。


優しい啓太を信じていたかった。

支えてくれた啓太を、信じたかった。


……でも、もうその啓太がいないなら。

待ってても戻ってこないなら……信じてる意味なんか、ない。


大体、初めから信じてた訳じゃないんだ。

ただ、現実から目を逸らして見ない振りしてただけ。

逃げてただけ……。

すごくなんかない。


認める事もできないくらいに、弱かっただけ―――……



それでもなかなか踏み出せない一歩に、小さく息を吐いて天井を仰ぐ。

そしてもう一度手元に視線を落とそうとして、テーブルの上に転がる飴に気付いた。

先週矢野からたくさんもらった飴。


「……」


その飴を一つ手にとって、口に入れる。

口の中に広がる甘い風味に気持ちを落ち着かせてから……再びケータイを見つめた。


あたしが好きだったのは昔の啓太で、今の啓太を好きな訳じゃない。

殴られて、冷たくされて、つらいだけなら―――……。





< 116 / 455 >

この作品をシェア

pagetop