甘い魔法―先生とあたしの恋―


「お邪魔しまーす」


和馬があたしの部屋に来たのは、20時半。

サッカー部の和馬はいつも遅くまで部活をしてるから、これくらいの時間帯になる事は予想してた。

夕食も済ませられちゃったし、かえって丁度よかった。


「狭いし古いけど、あたしのせいじゃないから」

「つぅか実姫にしては部屋がキレイすぎねぇ?!」

「……」


狭さでも古さでもなく、和馬が驚いたのはそんなところで。

あたしは小さな怒りを感じながらも苦笑いを逃がした。


小さい頃からずっと一緒だった和馬は、あたしが掃除嫌いな事もよく知ってるし、食べ物の好き嫌いも熟知してる。


友達みたいな関係だけど、本当はもっと近くにいて……。

お父さんよりもあたしをよく知ってる気がした。


「寄って欲しいとか言いながら何もないんだけど……あ、これ飲む?」


もてなす気もなかったから、部屋にはお茶すら用意してなくて。

ずっとテーブルの上に置きっぱなしだった矢野からもらったゼリーを見せると、和馬が苦笑いを浮かべた。


「……おまえ、こんなんで飯済ましてんじゃないだろうなぁ。

まぁ、いいや。それより話は?」


いかにも聞く気満々でいる和馬に、ためらいながら、一番刺激しないような言葉を探して……。

でも、結局そんなものは見つからなくて、出てきたのはシンプルな言葉だった。


「……啓太とね、別れた」


あんなに煩かった和馬が、その言葉に意外にも言葉を失って……そのまま動きすら停止してしまった。


「……和馬?」

「え、ああ、……よかったな」


歯切れ悪く返事をする和馬を、じっと見つめる。


諒子並みに、もしくはそれ以上大袈裟にリアクションすると思ってたのに。

あんなに別れろって煩かったのに。

なんだか拍子抜けしてしまったあたしが首を傾げた時……階段が軋む音が聞こえてきた。


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