甘い魔法―先生とあたしの恋―
クローゼットの奥はポッカリと穴が開いていて。
と、いうよりは壁が抜けていて。
2段に仕切られたクローゼットの奥の部分がすっぽり抜け落ちて、矢野の部屋と完全に繋がっている。
「ありえねぇから……」
矢野の放心した姿が、あたしの目の前にあった……。
「……」
「……」
眉を潜めてあたしを見つめる矢野。
いや、見つめるとかそういうのより、無言で責められてるみたい。
「……え、あたしのせい?」
「当たり前だろ……おまえじゃなかったら誰のせいだよ……」
「だって……っていうか、この建物の造り自体の問題……」
途中まで口にした言い訳は、片手で額を覆って立ち尽くす矢野に勢いをなくしていく。
「……ごめんなさい」
申し訳ない気持ちに、素直に謝罪すると、矢野はあたしの声にはっとして顔を上げて……そして気まずそうに言う。
「いや……まぁ、確かにここの壁薄いし。
おまえのせいってだけじゃねぇけど……。
でも、今ここ追い出されても、本当に困るんだよな。家賃2万の場所なんてどこにもねぇし……」
そう言いながらまた難しい顔をしてしまった矢野に、あたしも気まずくなって俯く。