甘い魔法―先生とあたしの恋―
部屋の中にいても十分聞こえる階段の音に、和馬がドアを見つめて……真剣な顔をしてあたしに視線を戻した。
「……隣さ、矢野センなんだろ? 諒子ちゃんに聞いた。
なんで言わなかったんだよ」
「……だって和馬余計な心配するもん」
「そりゃそうだろ! 男の部屋の隣で一人暮らしなんて、どう考えたって危ないだろ?!」
いつかバレるとは思って覚悟してたけど。
思った通りの反応を返す和馬に、苦笑いを浮かべて目を逸らす。
「そんなに心配しなくても、もう無事に3ヵ月も過ごしてきたんだから大丈夫だよ。
っていうか、矢野だってあんなんでも先生だし」
誤魔化すように笑いながら言うと、和馬は小さくため息をついて、視線を床に落とした。
その表情はいつもの和馬らしくなくて、落ち込んでいるように見える。
「俺さ、少し前に隣が矢野センだって聞いてさ……。
でも実姫から話してくれるまで待ってようと思って……だから今日やっと話してくれるのかと思ってたのに……」
「だから今話してるじゃん」
さっきの和馬の意外なリアクションは、予想とは違う告白だったからだったんだ、なんて呑気に考えてるあたしに、和馬が少し大きな声を出す。
「俺が聞いたからだろ?! 実姫はいっつもそうなんだよ!
おばさんの事だって1人で我慢して……一番に俺に相談してくれれば良かったのに!
そうすれば……、
田宮となんか付き合って殴られずに済んだのに……」
和馬は結構怒っているみたいで、声を荒立てていた。
温厚な和馬がここまで怒るのは珍しくて……そんな和馬にあたしは少し気まずくなりながら返事をする。