甘い魔法―先生とあたしの恋―
「……ごめん」
和馬がそんな事を思ってたなんて、今まで考えた事もなかった。
確かに、お母さんが出て行った時、和馬にはしばらく内緒にしてた。
でもそれは、受験の時期だったし心配掛けたくなかったからで……。
心配性の和馬は、そんな話を聞けば、自分の受験よりもあたしの事を優先させるのが分かってたからで。
静まり返ってしまった部屋に、矢野の部屋から聞こえてくる物音が寂しく響く。
「でもね、別に和馬を信用してないんじゃないんだよ?
ただ、心配させたくなくて……」
『色々言われるのもちょっと面倒くさいし』なんて、危なく続きそうになった言葉を呑み込む。
視線の先で、和馬が真剣な表情を浮かべる。
「実姫が田宮と付き合い始めた事を知った時、俺すげぇショックだった。
しかも殴られてるし……。
……守ってやりたいって思った」
和馬の真剣な表情なんて、今まで何度も見てて見慣れてるのに……。
なんだか今日の顔はいつもと違って見えて、不思議に思いながら声を掛ける。
「和馬? なんか今日おかしいよ? なんかあった?」
首を傾げていると、不意に視線を返されて。
じっと強い視線で見つめてくる和馬に、小さく身を竦めた。
和馬の態度のせいで、なんだか変な緊張が走って……、
「実姫……俺さ、……」
「え……えっ?! ちょっ……」
「俺っ……」
急に両肩を掴まれて、びっくりしていた時。
――コンコン
部屋のドアがノックされて……返事を待たずに開いた。