甘い魔法―先生とあたしの恋―


「……ごめん」


和馬がそんな事を思ってたなんて、今まで考えた事もなかった。


確かに、お母さんが出て行った時、和馬にはしばらく内緒にしてた。

でもそれは、受験の時期だったし心配掛けたくなかったからで……。

心配性の和馬は、そんな話を聞けば、自分の受験よりもあたしの事を優先させるのが分かってたからで。


静まり返ってしまった部屋に、矢野の部屋から聞こえてくる物音が寂しく響く。


「でもね、別に和馬を信用してないんじゃないんだよ?

ただ、心配させたくなくて……」


『色々言われるのもちょっと面倒くさいし』なんて、危なく続きそうになった言葉を呑み込む。

視線の先で、和馬が真剣な表情を浮かべる。


「実姫が田宮と付き合い始めた事を知った時、俺すげぇショックだった。

しかも殴られてるし……。

……守ってやりたいって思った」


和馬の真剣な表情なんて、今まで何度も見てて見慣れてるのに……。

なんだか今日の顔はいつもと違って見えて、不思議に思いながら声を掛ける。


「和馬? なんか今日おかしいよ? なんかあった?」


首を傾げていると、不意に視線を返されて。

じっと強い視線で見つめてくる和馬に、小さく身を竦めた。

和馬の態度のせいで、なんだか変な緊張が走って……、


「実姫……俺さ、……」

「え……えっ?! ちょっ……」

「俺っ……」


急に両肩を掴まれて、びっくりしていた時。


――コンコン

部屋のドアがノックされて……返事を待たずに開いた。



< 121 / 455 >

この作品をシェア

pagetop