甘い魔法―先生とあたしの恋―
恋心
「なに? やっぱり和馬くんに話すの相当てこずったの? もめた?」
後ろから諒子に背中を突かれて、あたしはびくっと身体を反応させた。
きっと、朝からため息連発のあたしに、そう感じたんだと思う。
……けど、ため息の理由は別にある。
「え……あ、ううん! 大丈夫……」
「そ? でも別れたんだから喜ぶところだもんね。
さすがの和馬くんでも何も心配するところなんかないもんね」
諒子の話を半分上の空で聞きながら、愛想笑いを浮かべる。
授業の合間の10分休みは、毎回の事ながら廊下が騒がしい。
子供みたいにバタバタ走り回る男子の姿に、諒子が毒気づく。
「本当に男っていくつになっても子供だよねー……あんなんで野球とかありえない」
諒子が向けた視線の先では、タオルを丸めて作ったボールを投げ合う男子の姿があって……あたしもその様子を眺める。
「閉めとこっか?」
諒子が廊下側の壁にある窓を指差しながら言う。
教室の前後のドアの間の壁には、上半身くらいの高さの窓が並んでいる。
窓ガラスは少し濁っているから、閉めてれば外は見えない。
……暴投されたタオルボールが入り込んでくる事もない。
「いいよ。閉めるとなんか蒸し暑くない? そんなに気になんないし大丈夫」
「夏前の蒸し暑いのって本当嫌だよね。髪が上手くまとまんないし」
諒子の話を聞きながら、あたしはキャッチボールする男子に視線を向ける。