甘い魔法―先生とあたしの恋―
「恋してる顔、してない?」
「……してない」
諒子がニヤニヤしながら聞いてきた言葉を、あたしは赤い顔のまま小さく否定した。
『してる』なんて……口が裂けても言えない。
矢野は教師であって……それ以外、何でもない。
一緒の場所に住んでるから、他の先生とは少し違って見えるだけで……
だけど、教師だもん。
それ以外のポジションなんて……ありえない。
※※※
「……おす」
昼休み、廊下側の窓から和馬が顔を見せた。
矢野が覗いてきたのと同じ窓に、小さく胸が騒ぐ。
……だから、何コレ。絶対違うって言ってるじゃん。
「和馬くん元気ないじゃん。何かあった?」
あたしが自分の鼓動まで否定していると、諒子が和馬に声を掛けた。
だけど、和馬はどこか上の空というか、難しい顔をしたままで。
「……どうかした?」
いつもの和馬とはあまりに違いすぎる態度に、心配になって諒子に続く。
あたしと諒子が凝視する先で、しばらく黙っていた和馬がやっと口を開いた。
「……矢野センってさ」
『矢野』
突然出たその名前に動揺して、パックジュースを持っていた手に思わず力が入って……
「あっ! ちょっと実姫!!」
「へ? ……あっ」
手元に視線を移すと、ストローから中身のイチゴオレが飛び出していた。
机の上に、薄いピンクの小さな水溜りができていて、そこに諒子がティッシュを置く。