甘い魔法―先生とあたしの恋―


「もー……しょうがないんだから、実姫は」


ティッシュで拭きながらも意味深な笑みを向けてくる諒子から、気まずくて目を逸らす。

矢野の名前に反応した事が諒子にはバレてるみたいで、恥ずかしくて。


「で、矢野センが何?」


机を拭き終わった諒子が和馬に視線を向ける。

すると、和馬はまた黙ってしまって。


「話があって来たんでしょ? 何? 言いにくい事?」


平然を装って聞くと、和馬が妙に真面目な顔をして……ぽつりと言った。


「矢野センって、実姫の事好きなんかな」


和馬の言葉に、あたしのイチゴオレが飛び出したのは言うまでもなく。


「もー……実姫はー……」


諒子がまたしても変な笑みを浮かべながら、可愛い色の水溜りを拭く。

あたしは諒子の視線から逃げるように俯いて……和馬はまだ難しい顔をしていた。




――あの後。


『そんな訳ないじゃん。教師だよ?

しかも矢野セン彼女いるらしいし。ティファニーちゃん』


諒子が心配性の和馬を言いくるめた。

そして、和馬が自分のクラスに戻ってから、


『さっきの嘘だからね。

教師だって男なんだから好きになったってちっともおかしくないって。

ただ……報われる可能性は低いかもしれないけど……でも!

実姫が本気ならあたしは応援するから!!』


それまで浮かべていた笑みとは違う、優しい笑顔をあたしに向けた。



『しっかし禁断だね! 超楽しみっ!!』


……付け足された言葉が、一瞬微笑もうとしたあたしを急停止させたけど。










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