甘い魔法―先生とあたしの恋―
「はー……」
矢野が不思議そうに見てくる中、あたしは箸を大急ぎで進めて部屋に戻ってきた。
毎週欠かさず見ているバラエティー番組がこの後始まる。
それに気付きながらも、あのまま食堂にいるなんて無理だった。
……心臓が騒がしすぎて。
「はー……」
静かな部屋に、また一つため息が落ちる。
なんとなく気持ちがもやもやしてて。
その理由は……、自分でも、少し分かってて……。
あたしは勢いよく立ち上がって、クローゼットを開ける。
嫌でも頭を支配しようとする考え事を消したくて。
まだ気付ききっていない、ふわふわとした想いを消したくて……。
テキパキ身体を動かして、頭を空っぽにしたかった。
クローゼットの下の段のチェストから、明日のブラウスを取り出す。
制服をかけたハンガーに、出したばかりのブラウスを掛けて、クローゼットを閉めようとした時。
いつか矢野にもらったクッションが目に映った。
そのクッションに、また再生し始めてしまった考え事を止めようと、クローゼットを閉めようとして……。
閉め切れずに、クッションを手に取る。
そして、やっとクローゼットを閉めた。
初めて部屋に入れた矢野のクッションを見つめると、何度目か分からないため息がまた落ちた。