甘い魔法―先生とあたしの恋―
その笑顔は女子生徒に向けられたものなのに。
なぜかあたしの心拍数が勝手に上がる。
それを煩わしく思いながら、胸の前で手を握り締めた。
「あの……あたし、先生が好きです」
……―――
大人しそうな女子生徒が、顔を真っ赤にして俯きながらした告白。
なんとなく……
雰囲気からしてなんとなく、そんな気はしてたけど……。
他人の告白現場なんか見たのは初めてで、そんな場所に居合わせてしまった事に少し申し訳ない気持ちになりながらも、矢野の返事が気になって……。
その場から動けなかった。
緊張で張り詰めている空気があたしにまで伝わってきて、息苦しさすら感じる。
自分が告白した訳じゃないのに、心臓はさっきから速いリズムで動き続けていて。
小さく呼吸を繰り返す。
気を付けていないと、あたしの息遣いまで聞こえちゃうんじゃないかってほど静かな空気の中で、矢野が口を開いた。
「悪いけど、生徒と付き合うつもりはないんだ。
知ってると思うけど、俺、教師だから」
「……そう、ですよね。……すみません」
女子生徒は必死に絞り出したような声でそれだけ告げて、矢野に会釈をしてその場を後にした。
矢野が女子生徒の後ろ姿を眺めて……一つため息を落とす。
あたしは矢野のため息を壁の影で聞いて……
その姿に背中を向けて、胸の前で握っていた手を下ろす。
突然襲ってきた無気力感に、視線を動かす事さえ忘れていた。
『生徒と付き合うつもりはないんだ』
矢野の、そんな当たり前の言葉が頭を支配して……
動けなかった。