甘い魔法―先生とあたしの恋―
「そっか……」
矢野が小さく呟いて、上った階段を引き返してあたしに近づく。
「よくやったな」
そう言ってあたしの頭をくしゃっと撫でた後、矢野はその手をスーツのポケットに突っ込む。
そして、「これしかねぇや」と、あたしの手にミントガムを落とした。
包み紙から漏れてくるミントの香りが、目の奥を刺激する。
「ご褒美な」
矢野は、あたしに笑いかけてからまた階段を上って廊下を曲がった。
あたしは階段の踊り場に立ったまま、矢野にくしゃくしゃにされた髪を直すこともできずにいた。
矢野の優しい笑顔が
頭を撫でた手が……
頭に鮮明に記憶されたまま離れない。
『先生』
そんな言葉が、何の抑制効果を持たない事に気付いて……。
自分の中の矢野の居場所が、予想していたよりずっと大きかった事に気付いた。
『生徒と付き合うつもりはないんだ』
そんな言葉を聞いたすぐ後なのに……。