甘い魔法―先生とあたしの恋―
「どうなんだよ」
再度問い掛けてきた啓太の声に、少しだけ苛立ちが混ざる。
その声に小さな恐怖感が浮かぶも……あたしは意を決して深く頷いた。
「……へぇ。おまえ、俺を捨てるんだ?」
啓太の信じられない言葉に、顔を上げる。
見上げる先には、小さく笑みを浮かべる啓太がいて。
コンビニの街頭に、たくさんのピアスが反射する。
「捨てるって……そんなんじゃ……」
「捨てるんだろ? 他に好きな奴が出来たから。
結局アレだな。おまえもおまえんちの母親と一緒だな。
必要なくなったら捨てるんだよ」
「―――……っ」
上げた視線を一気に足元まで落とすと、溢れ出した涙がコンクリートの地面へと落ちた。
ショックなのかどうかもよく分からないほどに、思考が停止していた。
啓太の言葉が、張り付いたように頭に残ったまま離れない。
憤りも、怒りも、悲しさも……
何も感じていないのに、涙だけが静かに流れ続ける。
それは止める術もないほどに、瞳を覆っては地面へと落ちて……あたしの視界をぼやかし続ける。
「実姫」
呼ばれた名前に、思考を停止させたまま顔をゆっくり顔を上げて……。
途端、視界に入ってきた啓太の振り上げた手をぼんやりと眺めていた。
逃げる、なんて選択肢も選べないほどに、頭が止まってた。
パン、と乾いた音と一緒に衝撃が走る。
なんとかその場に踏み留まったあたしを、遅れてきた頬の痺れが襲う。
あたしは、その頬を手で覆う事もできなかった。