甘い魔法―先生とあたしの恋―
「……じゃあな。おまえの望み通り別れてやるよ」
啓太の声がして、気配がなくなる。
コンビニの店員は気付かなかったみたいで、何度もあくびを繰り返していた。
久しぶりに叩かれた頬が、じわじわと熱を伴った痛みで包まれる。
少し遠くから聞こえてきた話し声にハッとして、あたしはやっとその場を離れた。
そして頬の痛みに、ようやく思考が動き出す。
『女殴る男は最低だ』
いつかの先生の言葉が頭をよぎる。
本当だよね……。
最低だよ。
どこを好きだったのかさえ、もう曖昧だった。
啓太にも、啓太なんかに必死でしがみついてた自分にも腹が立って……悔しかった。
悔しくて悔しくて……
痛みの広がる頬を押さえながらゆっくりと寮までの道を歩いた。
穏やかな風があたしの背中を押していく。
バイバイ、啓太……
もう、本当にこれで終わり―――……
寮までの帰り道、あたしは一度も振り向かずに歩いた。