甘い魔法―先生とあたしの恋―
わざと大人ぶって粋がってる啓太とは違って、子供っぽい部分をそのまま表に出す先生には、大人の余裕すら感じる。
先生と比べると、つくづく啓太の粗が浮きだってきて……。
左の頬が痛みを取り戻す。
痛みで、頬の微かな腫れを思い出して、あたしは先生から視線を移す。
諒子以外誰も気付かなかった腫れに、先生がこの距離から気付くとは思えなかったけど……なんとなく後ろめたくて。
少し俯きがちに校長の話を聞いた。
いつもは大人しい校長が、今日はうんざりするほどたっぷり時間を掛けてバスケ部を褒め称えていて……他の部に激を飛ばして、ようやくマイクを離した。
「ね、校長、髪増えてない?
先月休んでばっかだったじゃん? その間、育毛に専念してたんじゃないかって噂になってるの知ってた?
きっと上手くいったからあんな気合い入ってるんだよ」
諒子が後ろから言ってきた言葉に、思わず吹き出しそうになった時。
「校長センセー、増毛成功してよかったっすねー」
3年の男子からそんな言葉が飛んだ。
それを聞いた生徒が騒ぎ出して……笑いと同時に、生徒の視線が校長の頭に注がれる。
「えっ、増毛?!」
「超自然じゃん。なに? 大成功?」
一気に明るく騒がしくなった館内に、教頭の声が響く。
『静かにしなさいっ』
見るな、とも言えない教頭が必死に制止するも、調子に乗った生徒達は収まる様子を見せない。
「超うけるんだけど」
ありえないほどの館内の盛り上がり様に、諒子が笑って、
あたしも小さく笑いながらも呆れてため息を漏らした時―――……。
突然、腕を強く引かれた。