甘い魔法―先生とあたしの恋―
「じゃあなんだよ」
珍しくあたしの内側まで聞いてくる先生に、黙って手を握り締めた。
好きになって欲しいとか、大切にされたいとか。
付き合ってる時は何度もそう思った。
それを望んだ。
でも……、そんな事を期待して会いに行ったんじゃない。
『もしかしたら啓太は謝りたいのかもしれない』
あたしが期待したのは……そんな愚かな事。
啓太が謝ってくれたら、あたしの今までの全部が報われる気がした。
啓太と付き合った時間も
お母さんを信じて待ち続けてる自分も
お父さんの優しさを本当は望んでる自分も―――……。
全部が、無駄じゃないって思える気がした。
全部が、そこから上手く回り出す気がした。
啓太の謝罪を受け入れられたら……また信じて待てるように思えた。
お母さんの帰りを……
お父さんの愛情を……
……―――でも。
「あたし、バカだよね……」
笑みを浮かべようとした表情は、悲しみが混ざって上手く笑えなかった。
先生は机に浅く腰かけた状態で、あたしを見ていた。
そんな先生に視線を合わせる事なく、俯く。