甘い魔法―先生とあたしの恋―


「じゃあなんだよ」


珍しくあたしの内側まで聞いてくる先生に、黙って手を握り締めた。


好きになって欲しいとか、大切にされたいとか。

付き合ってる時は何度もそう思った。

それを望んだ。

でも……、そんな事を期待して会いに行ったんじゃない。


『もしかしたら啓太は謝りたいのかもしれない』

あたしが期待したのは……そんな愚かな事。


啓太が謝ってくれたら、あたしの今までの全部が報われる気がした。


啓太と付き合った時間も

お母さんを信じて待ち続けてる自分も

お父さんの優しさを本当は望んでる自分も―――……。


全部が、無駄じゃないって思える気がした。



全部が、そこから上手く回り出す気がした。

啓太の謝罪を受け入れられたら……また信じて待てるように思えた。


お母さんの帰りを……

お父さんの愛情を……


……―――でも。



「あたし、バカだよね……」


笑みを浮かべようとした表情は、悲しみが混ざって上手く笑えなかった。

先生は机に浅く腰かけた状態で、あたしを見ていた。


そんな先生に視線を合わせる事なく、俯く。





< 151 / 455 >

この作品をシェア

pagetop