甘い魔法―先生とあたしの恋―
小さな沈黙が走る。
涙を浮かべた瞳で俺を見つめてくる市川とは目を合わせないまま……重たい口を開く。
「なんでって……
おまえが……、彼氏と別れて寂しそうだったから」
俺が沈ませた表情にも気付かず、市川は言葉を失ってた。
俺は、軽く奥歯を噛みしめてパソコンの画面に視線を固定する。
……市川の顔を見たら、突き放せなくなる事が分かってたから。
「寂しそうだったら……誰とでもキス、するの?」
聞こえてきた震える声に、胸が痛かった。
喉の奥に息が詰まって……ゆっくりと目を伏せる。
歪めそうになる表情で、必死に平然を装った。
張りつめた重たい空気に
市川の視線に……、鼓動が速くなる。
『好きだ』
そう伝える事が、簡単な事に思えた。
好きな女相手に、自分の気持ちを偽るよりも、
素直に気持ちを伝える事のが、ずっと簡単だと思った。
市川が俺を好きじゃなくても。
それでも、嘘を付きたくなかった。
頷けばいいだけの話なのに……それが、出来ない。
こんな簡単な嘘が、口から出ない。