甘い魔法―先生とあたしの恋―


「……ああ」


たった一言、それだけを言うのがやっとだった。

上手く、声が出なかった。



市川の顔なんか見なくたって、今傷ついてる事くらい分かった。

分かりたくなんかないのに……痛いくらいに、分かった。


……やっぱり、気付きたくなかった。

こんな、バカみたいに純粋な気持ちになんか……、気付きたくなかった。


気付かなきゃよかった。

市川本人にさえ隠さなきゃいけない気持ちになんか……、気付かなきゃよかった。




……―――でも、もう戻れない。


静かな時間が流れる中、市川が俯かせていた顔を勢いよく上げた。


「じゃあっ……同じクラスの宮田さんだって、今日彼氏に振られたって泣いてたよ?

ここの中村さんだて、飼い猫が逃げちゃって戻ってこないって心配してたよ……っ


みんな……寂しそうだったから、キス、してきてよ」


思わず移してしまった俺の目に映った市川は……強い口調で強引な言葉を言いながらも、涙を浮かべてた。

その涙が落ちそうになるのを見ていられなくて、俺は視線をパソコンへ戻してからわざと無理矢理笑って見せる。


「してきてよって……、おまえなぁ……」

「あたしはっ……誰でもいい訳じゃない」


俺の言葉を遮った市川。

震えながらも、しっかりと言い切った市川に……俺はゆっくりと視線を上げる。


涙をポロポロ零しながらも俺を真っ直ぐに見つめてくる市川に、目を逸らせなかった。

嘘なんて付いていない市川の言葉が……、胸に深く突き刺さって、鋭い痛みを残す。


「あたしは……好きじゃなきゃ、キスなんかしないっ。

誰でもいいなんて……そんなの、ある訳ないじゃん……」

「……」

「先生はそうだったとしても……あたしは、違う。

好きじゃなくちゃ……好きじゃなきゃ、嫌だよ」


そう言った市川の瞳からは、また涙が溢れて……俯いたその姿は、俺の言葉を待ってるように見えた。



『俺もそうだし』

『好きじゃなきゃしねぇよ、キスなんか』

『つぅか、気付けよ』


『好きだ―――……』





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