甘い魔法―先生とあたしの恋―
「今回のは、きっと効くハズだから」
それだけ言って、逃げるように食堂を後にした。
その足で寮を出て、ドアを閉めたところで……立ち止って手の中に残ったもう1つの飴を口に入れた。
『忘れ薬』
甘い甘い飴が、口の中で溶け始める。
どこまでも染み込んでいきそうな甘さに、さっき作れなかった笑みを零した。
……苦笑いを。
「……不味いし」
いつもは落ち着くハズのこの飴が……初めてそれ以外の感情を俺に残す。
口の中に残る甘さがなかなか消えなくて。
一緒に残り続ける痛みに、小さくため息を吐き出した。
口の中を掠めていくため息でさえ、甘さを伴った痛みを残していく。
『忘れ薬』
そう名付けた飴が消化されるには……かなりの時間が掛かりそうだった。
切実な願いを込めた効能は……、
きっとその役割を果たさない。
……俺には。