甘い魔法―先生とあたしの恋―
あたしが見つめる先で、先生が急に口許を緩めた。
そして。
「目開けたまま寝てんじゃねぇよ」
そう言いながら、窓際の席に座る男子の頭を軽く教科書で叩く。
5時間目の教室は、気持ちのいい日差しと満腹なお腹が眠気を誘う。
それでも先生の授業中に寝る生徒は、他の教科に比べると少ない。
「うおっ……今、購買のコロッケパンゲットした夢見てた」
「そりゃよかったな」
男子がもらした言葉に、クラス中が笑い出す。
購買のコロッケパンはあまり数が作られないせいか、人気が高い。
昼休みに入った途端に、コロッケパン争奪戦のためだけに廊下を走る男子は正直少し鬱陶しいくらい。
あ……、また笑った。
寝ぼけている男子に呆れながらも笑みを零す先生に、胸がキュウっと鳴く。
その日の授業中、
何度か目が合ったような気がした。
その度に暴れ出しそうな心臓を、先生の薬指に光る指輪が止める。
『伝えられなくてもいい』
そう、思ったのに……。
勝手に傷ついてる自分が嫌になって、自然とため息が口をついた。