甘い魔法―先生とあたしの恋―
「ほら。このパン、これで最後だって。ついてんな、おまえ。
ん? 俺がついてんのか」
先生の言葉と一緒に、あたしの頭にパンが入った紙袋が乗せられた。
流れる空気に含まれる先生の香りが、鼻をくすぐる。
「……ありがと」
その紙袋を受け取りながら、小さく笑って見せた。
「別に。……ついでだって言ったろ?」
「最後だったんだー……よかった。諒子に怒られるところだった」
少しのドキドキを感じながらもそう言うと、先生はふっと笑みを零した。
「俺、最後って好きだな。
福あるっつぅし……好きなもんとかは絶対最後まで残すし。
最後って印象深いしな」
急に子供みたいな表情をした先生に、微笑んで答える。
「あたしは中間かなー……最後まで取っておいて食べられなくなったら嫌だし。
誰かに取られちゃったりしても嫌だし」
「あー……それは確かにな。つぅか俺は取られないけどな」
騒がしい購買を背中に、2人で並んで歩く。
2年の教室と数学学習室は途中まで同じ方向だから当たり前なのに、並んで歩く事に、小さな緊張が生まれる。
隣を歩く先生に……ドキドキする。
「おまえたまには自炊しろよ。いっつもパンじゃん」
「うるさいなぁ……先生だってパン買ってるじゃん」
言い返すと、なぜか先生は優しく笑って……でも、少し酷な言葉をあたしに向けた。
「俺がこんな風に話したりとか、パン買ってきたりとか。
優しくするのは、おまえが生徒だからで……そこに、教師以上の感情はねぇから」