甘い魔法―先生とあたしの恋―
急に言われた、突き放すような言葉に……あたしの足が止まる。
立ち止ったあたしを先生が振り返って……、その視線に気づいたあたしは俯いて、パンの入った袋を胸の前で抱き締めた。
「そんなの……、知ってる」
「市川……」
「大丈夫だよ。あたし、何も期待してないよ?」
「……」
「第一……先生には彼女いるじゃん。
ティファニーちゃんいるの、知ってるもん」
「市川、」
「じゃあね、先生」
先生が言い掛けた言葉を遮って、わざと明るく笑いかけた。
そのまま逃げるように、教室までの廊下を走る。
……気付かれたくなかったから。
先生の優しさに、一瞬期待した自分がいる事に。
先生の言葉に、落ち込んだ自分がいる事に―――……。
『教師以上の感情はねぇから』
あんなにハッキリ言われたのに……。
それでも嬉しいなんて、どうかしてる。
先生に優しくされた事が、
話し掛けてくれた事が、
笑い掛けてくれた事が……
それが生徒としてでも、嬉しかった。
「実姫、購買のパン嫌い?
この間も食べてなかったよね」
目の前でバンズパンを頬張る諒子に言われて、あたしはやっとパンを口に運ぶ。
「ううん。……好きだよ」
先生の買ってくれたパンは……苦い恋の味がした。