甘い魔法―先生とあたしの恋―
下の段だけでも、服とか鞄くらいなら収納できるだろうし。
上の段は別に……うーん……。
あたしの心の唸りが聞こえたのか、矢野が更に付加条件を提示する。
「あと、特別にこれやるよ」
突然渡された赤いパイプ椅子に、あたしは小さく表情を歪める。
「……なんでパイプ椅子? ってか、重いしっ」
「ラック買ったら使おうと思って一昨日買ったんだけどさ、なんか知らねぇけどそこのお店のおばさんが2脚くれて。1脚サービスだって」
「……ホストだとでも思ったんじゃないの?」
「貢物かよ。あ、ちなみにおそろいだから」
矢野の言葉に身を乗り出すと、確かに矢野が座っているのは黒いパイプ椅子で。
おそろいという言葉を少し気にしながらも、あたしはそれを広げてクローゼットの前に座る。
そうすると、本当に机を挟んで矢野と向き合っているような格好になって。
……なんだか不思議な気分。
「パソコン貸して」
「さっそくかよ。ちょっと待て。今終わらせるから」
ふてぶてしく言うと、矢野は小さく笑ってキーボードを叩く指のスピードを速めた。
その様子をなんとなく眺めて……矢野の顔に違和感を覚えて、あたしは首を傾げた。