甘い魔法―先生とあたしの恋―
「ねぇ、さっき眼鏡かけてたっけ?」
「あ? ああ、仕事する時だけな。……パソコンで何か調べ事か?」
「……うん。明日の天気」
話しながらも、スピードの落ちない矢野のキーボードさばきに驚きながら答える。
天気が知りたい理由はもちろん、啓太との約束のため。
新聞なんかとっている訳がないし、テレビも家に置きっぱなしでここには持ってきていない。
ケータイがあるけど、必要以上に使ってケータイ代を増やしたくなかった。
もしも明日急に雨でも降ってきたら……その時あたしが傘を持ってなかったりしたら。
そしたら……また殴られるかもしれない。
そこまでいかなくても、きっとデートは切り上げだろうし。
そんなの嫌だし……。
また痛みだそうとする左頬に手を当てると、矢野がちらっと視線を上げてあたしを見た。
「デートか?」
「……うん」
そうは答えたものの、少しだけ憂鬱になってしまった気持ちに突っ伏してみる。
それ以上聞かないでっていう意味も込めて。
……なのに。
「なんだ、やっぱりさっきの電話彼氏なんじゃん。……にしては随分あっさりしてたな。
今の奴らってそんなもん?」
「……っ、別にいいでしょ? ほっといて!
あたし達にはあたし達の付き合い方があるんだからっ!」