甘い魔法―先生とあたしの恋―


痛いところをつかれて、あたしは思わず声を荒立たせてしまって……。


矢野の驚いたような顔を見て、はっとして俯く。


「……ごめんなさい」


そして矢野に聞こえるかどうか分からないくらいの謝罪を告げる。


『あたし達にはあたし達の付き合い方がある』

本当は……そんな事思ってない。

何度もそう思おうと思った。

そう思えるようになれれば、今のこの関係だって……つらくなったりしないんだからって。


あたしだって

こんな関係を望んでるんじゃない。



あたしが望んでるのは、普通の付き合い方……。

啓太の機嫌を窺ってビクビクしたりしたくないし、殴られたくもない。


普通の恋人になりたい。


だけど……

啓太を失うのが怖い。



啓太がいなくなったら……あたしを受け入れてくれる人がいなくなっちゃうから。


あたしを置いて出て行ったお母さんも、仕事にしか興味がないお父さんも……。

きっとあたしを必要となんかしていない。


それが分かって、どうしょうもないくらいに落ち込んでいた時に笑い掛けてくれたのは、啓太だったから。


そこから救ってくれた啓太にまで捨てられたら……、

どうしていいか分からない―――……





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