甘い魔法―先生とあたしの恋―
少し膨れながらもそのまま俯いていると……ふと、視線の先に先生の手が止まった。
先生の……、左手。
薬指にはめられた指輪が……蛍光灯の灯りに、白く光ってた。
「先生……」
指輪を見つめたまま、自然と先生を呼んでた。
「ん?」
「……」
だけど……すぐに言葉が出てこなかった。
『彼女、いるんだよね……?』
聞きたかった事はすごく明確なのに……言葉が、出ない。
「どうした?」
先生の問い掛けに……あたしは無言のまま先生の指輪を指差す。
人差し指を上げた後で、大きな後悔があたしを襲った。
知らない振りをしておけばよかった。
彼女がいるのに、あたしに告白した先生がいい加減だとか
二股がどうとか……。
そんな事に後悔したんじゃない。
別に……彼女がいても、例え二股でも、自分が何番目でも。
先生が好きなのは……本当だから―――……。
本気だから。
……―――だから、今の幸せを壊すような事を聞いた自分を後悔した。
黙ってればよかった……。
先生の指輪で、なんとなく気付いてた彼女の存在。
最近はすっかり忘れていたけど、前からずっと先生の薬指を埋めていた存在。
それを、先生から直接聞くのが怖かった―――……。
先生の視線が、ゆっくりとティファニーの指輪に落ちる。
心臓がドキドキして……まるで病の告知でも受けるような緊張だった。