甘い魔法―先生とあたしの恋―
『違うのっ! ほら、ホコリが落ちてて!』
今からでもそう言えば何もなかった事にできるかもしれない。
でも―――……。
それじゃ、何も変わらない。
啓太の時と同じだ。
見ない振りに、知らない振り。
そんなのは、もう十分……。
先生は、
啓太とは違うんだから。
先生が指輪を見るまでの時間が、スローモーションのように瞳に映る。
先生は、あたしの指差す先にあるものが指輪だって事に気付いて……ふっと表情を緩めた。
「ああ、これか」
想像していたのとは違う、明るい声に、少し拍子抜けした。
緊張感なんかみじんも感じられない先生の声。
先生は徐に指輪を外すと手の平で転がし始める。
「生徒に近寄られないように買ったんだ。
告白されるだけで、教育者としてどうのって教頭がうるせぇから。
左手の薬指に指輪しとけばいい女除けになるかなーなんてそんな感じでしてるだけ」
「……本当に?」
思わずそう聞けば、先生はにっと口の端を上げて意地悪な笑みを浮かべる。
「さぁね。……そんなに俺が好きなんだ?
こんな指輪が気になっちゃうほど」
挑発するような先生の態度に、また言葉を失って先生をじろっと見つめる。
この間替えたばかりの蛍光灯は眩しいくらいに部屋を照らして、先生の茶髪をより明るく見せる。