甘い魔法―先生とあたしの恋―


「はー……」


ため息は定期的に口をついて、それは家の前に到着するまで止まる事はなかった。

ため息をつく度に幸せが逃げていくっていうのが本当なら、今日一日で半年分くらいの幸せを逃がした気がする。


ガチャリと音を立てて開く玄関の鍵。

その感覚が重く感じるのは、あの安っぽい軽い鍵に慣れたせいなのか……。

それとも、気持ちの問題なのか。


家を出て寮暮らしを始めてから、帰ってくる事数回目。

鍵を開ける瞬間は、必ずあたしを憂鬱な気持ちが襲う。


お父さんがいたら……、

そんな不安めいた気持ちからくる緊張を覚えながらドアを開けると、シンとした空気があたしを待っていた。

外よりも少しだけ涼しい、静かな空気。

人の気配がない事に安心しながら、靴を適当に脱ぎ捨ててリビングに向かった。


リビングのテーブルの前で立ち止まって、鞄の中からプリントを取り出す。


「……どうせ来ないだろうけど」


そんな独り言をぼそっと呟いて、テーブルの上にプリントを置こうとした時だった。

テーブルの上に、見覚えのある封筒が置いてある事に気付いて……あたしの手が止まる。


茶色い封筒に表情を歪めた後、壁にかけてあるカレンダーに目を移す。


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