甘い魔法―先生とあたしの恋―


「……啓太は、またバスケするのかな」

「さぁ。……でも、いつか戻りたいから走ってるんだと思うけど」

「そっか……」


和馬の言葉に、少しだけ微笑みを浮かべて視線を落とす。


啓太の話題に、スプーンを持ったまま和馬を眺めていた先生が、ようやくカチャカチャと音を立ててオムライスを食べ始めた。

そして何回か口に運んだ後、急に立ち上がって冷蔵庫を開ける。


「市川、ケチャップ貸せ」

「え、……あ、うん」


あたしの名前が大きく書いてあるケチャップを片手に言った先生に、コクリと頷く。

先生は自分のオムライスにそれをかけて、あたしに視線を向けた。


「市川は? これ、味薄くねぇ?」

「……うん」


頷くと、先生はあたしのお皿を引き寄せて、オムライスの上にケチャップで線を引く。


中村さんの味付けは、全体的に薄味が多い。


それに気付いてからは、色んな調味料を冷蔵庫に揃えるようにしてるんだけど……。


『私物化すんなよ。中おまえのモンばっかだし』

あたしのものだらけの冷蔵庫を覗いて、先生がいつか笑ってたっけ。

でも、先生もよく使ってるし。

たまにあたしに無断で使ってるのも知ってるし。





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