甘い魔法―先生とあたしの恋―
それを言ってやろうかとも思ったんだけど、落ち込んだままの空気に今その話題を出すのはひどく場違いなような気がして、口を閉じる。
和馬はあたしに話した事に罪悪感を感じてるのか、さっきから何も言わないし、あたしも急に知りすぎた啓太の事情に、言葉が出なかった。
「ほら」
そんなあたしと和馬の間で、先生がお皿を戻す。
黄色い卵の上には、くねくねとしたキレイな一定間隔を保つラインが引かれていて……。
あまりの出来に、あたしは堪えることの出来なくなった笑いを吹き出した。
一度笑い出すと止まらなくて、そんなあたしに先生と和馬の視線が向けられる。
「なんだよ、市川」
「実姫? どした?」
「だってっ……なに、このキレイなライン……」
機械で書いたような、キレイすぎる規則正しいケチャップの赤い線がやけにおかしく思えてきて、あたしは笑ったままそれだけ言う。
「キレイで何が悪いんだよ。上手くかけてんじゃん」
「や、いいんだけど、先生ってやっぱり几帳面だなって思っただけ。
食べちゃうのにこんなキレイに書かなくてもいいのに」
「食べるにしてもキレイな方がうまいだろ」
「それに真剣な話してたのにぶち壊し……」
まだ零れてくる笑いにクスクス笑うと、先生は口許を少しだけ緩めて話し出した。