甘い魔法―先生とあたしの恋―
先生がくれた言葉が、教師として正しいものかはあたしにはよく分からなかった。
だけど、それはびっくりするくらいにすんなりとあたしの中に入り込んでいって、もやもやとしていた胸の中の霧をなくしていく。
それは和馬も同じだったようで、さっきまでの落ち込んだ顔は、もう姿を消していた。
あのまま和馬と2人で話していたら、きっといつまで経ってもこんな風に笑えなかった気がした。
ずっと……わだかまりを残してしまっていた気がした。
先生がいてくれたから、こんな風に笑えて、すっきりとした気持ちで前を見つめられる。
先生がいてくれる事が心強くて、嬉しくて……。
緩んだ顔がなかなか元に戻らなかった。
「じゃ俺帰る。実姫、また明日な。
……矢野セン、実姫に手出すなよ」
笑顔の和馬が、冗談としては際どい言葉を残しながら寮のドアに手を掛ける。
スプーンを落としそうになったあたしは、和馬をじろっときつめに睨む。
「ばかな事言ってないで早く帰りなよ。おばさんが心配するよ」
「へいへい」
憎たらしく笑ってバカにしたような返事をしながら、和馬がドアを閉めた。
和馬のだんだん遠ざかる足音が、静かな食堂にわずかに聞こえる。
さっきから口を開こうとしない先生が気になりながらも、あたしからも声を掛け難くて……いつもより遠くに座る先生を寂しく感じながら、食事を進めた。
「……おまえ、今何考えてる?」
沈んだ表情のままオムライスを口に運ぼうとした時、不意にそんな事を言われて。
「特に何も……」
首を傾げながらそう言うと、先生はあたしから視線を逸らした。