甘い魔法―先生とあたしの恋―
「……言っとくけどやきもちとかじゃねぇから」
「はいはい」
「……本当に違うし」
「だから分かってるってば。別に先生が嫉妬深いとか思ってないし」
「……おまえ、数学の評価1にしてやる」
「ちょっ……職権乱用!
大丈夫だよ! 先生があんな小さな事で、しかも元彼の事なんかでやきもち妬いたなんて誰にも言わないから!」
言い終わってから口を塞いだあたしに、先生は眉を潜めて、くしゃくしゃと自分の頭をかく。
「あー……マジでだせぇ……」
そう呟いた先生は、椅子の背もたれに身体を預ける。
古い椅子がギシっと音を立てて、先生の身体を受け止めた。
寝起きみたいに乱れた髪を後ろに流しながら天井を仰ぐ先生が、やけに大人っぽくて見入っていると……
急に振り向いた先生と目が合った。
「ところでおまえ、なんでこんな時間に夕飯食べてんだよ。
いつもこの時間は大抵部屋にいるだろ」
先生がチラッと時計を見る。
食堂の古ぼけた壁にかかっている時計が、20時24分を指しているところだった。
「ちょっと実家行ってたから……。
さっき帰ってきて、そしたら和馬が待ってて。で、あんな話に……」
また啓太の話になってしまいそうで、それ以上は濁らせる。
あたしの目に映る先生は、いつも飄々(ひょうひょう)としていて余裕たっぷりだったから、正直あんな些細な事でやきもちとかって意外だった。
でも、初めてのやきもちが嬉しくて仕方なくて……どうしても口許が緩む。