甘い魔法―先生とあたしの恋―


「僕、実姫さんの高校の教師で、矢野といいます。

あの……三者面談のプリントはご覧になりましたか?」


きちんと目を合わせたまま凛とした態度で話すと、父親の表情が驚きに変わって、そして安心したように表情を緩ませた。

俺より少し低い身長に、きちっと整えられてる髪。

硬派な印象を受ける父親は、スーツがよく似合っていた。


「そうでしたか。失礼な態度を取ってしまい、申し訳ありません。

……去年泥棒に入られたものですから警戒心が解けなくて。どうぞ、お上がり下さい」

「……おじゃまします」


物腰柔らかく言う父親に、首を振るわけにもいかず。

迷った挙句、小さく笑顔を見せてから促されるままに家へと入った。


キレイな玄関に好感を覚えながら父親の後に続くと、生活感のあまりないように見えるリビングに通された。


「すみません。あまり帰ってこないもので、何もないんですが……コーヒーでいいですか?」

「あ、おかまいなく。すぐに帰りますので、結構です」

「まぁ、とりあえず掛けてて下さい」


指定されたソファに腰を下ろしてから、さっきの疑問を再び父親に向けた。


「さっきの続きですが……三者面談、去年も欠席されたんですよね?

仕事柄もあるかと思いますが、なんとかなりませんか?」


父親は苦笑いを浮かべながら、手元のカップにコーヒーを注ぐ。


「ところで先生。今回わざわざこうして来られたのは……実姫が何か学校で問題でも起こしたからですか?」

「あ、いえ」


逸らされた話題に、慌てて首を振る。

そして、市川の事を思い出しながらゆっくりと口を開く。




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