甘い魔法―先生とあたしの恋―
「……問題なんか起こしませんよ。
実姫さんは、成績もいいですし、何より努力家ですから。
……今日伺ったのは、たまたま僕が出張でこの先に用事があったのでそのついでです。
あくまでも、三者面談のご相談にあがっただけです」
それを聞いた父親が、小さく笑みを零す。
コーヒーの入ったカップを一つ俺の前に置くと、父親が俺の向かいに座った。
「中学2年までは勉強なんか大嫌いでしてね……。
それなのに急に頑張り出して……おかげで反抗期もなかったので、こっちとしては助かったんですが」
そう漏らす父親の表情はとても穏やかで……、市川から聞いていたイメージとは少し異なって俺の目に映る。
温厚そうな父親。
だけど、その姿に、俺の脳裏に一つの疑問が浮かぶ。
それは簡単には口に出せないような事で……迷った挙句、俺は遠慮がちに話を切り出した。
「失礼を承知でお聞きしたいんですが……」
「はい?」
「以前……実姫さんに、手をあげられた事がありますよね……?」
一瞬にして張り詰めた空気に、緊張が走る。
表情を歪めた父親は……苦笑いを浮かべて視線をコーヒーへと移した。
「……お恥ずかしい話です」
「……何か事情でもあったんですか?」
父親はコーヒーを口に運んで……ちゅうちょした後、ゆっくりと話し始めた。
「実姫の母親が出て行ってしまってから……情けない話、実姫とどう接していけばいいのかが分からなくなってしまって……。
毎日仕事に明け暮れて……もちろん、仕事が忙しかったのも本当です。
でも、今思うと、多少逃げていた部分もあったのかもしれません。実姫と向き合う事から……」
「……」