甘い魔法―先生とあたしの恋―


「何か勘違いされているようですけど……。

実姫さんが勉強を必死に頑張っているのは、お父さんに嫌われたくないかららしいですよ。

……以前、実姫さんから聞きました。


実姫さんは……お父さんと向き合う事じゃなくて、嫌われる事を怖がっているんです。

お父さんに嫌われて、捨てられる事を、怖がっているんです……。

だから、お父さんに迷惑掛けて嫌われたくないからって勉強して順位を保って……あんな古い寮にも、文句も言わず1人で住んでるんですよ」


驚いた表情を向ける父親に、俺は真っ直ぐに視線を合わせた。


「変わりたいと思ってるなら……ちゃんと向き合ってあげてください。

もっと、会話してあげてください。せっかく親子が揃ってるんですから……」


真剣な表情を向けて言うと、父親は小さく微笑んで……


「そうですね……。

話もしないで、探るばかりじゃ何も解決しないですね。

……本当に申し訳ないです」


それだけ言って、目を閉じた。





玄関で靴を履き終えてから、玄関先まで見送りに来てくれた父親に振り向いて、言いにくい言葉を口にした。


「あのー……僕が来た事、学校にも実姫さんにも黙っててもらえますか?

僕、まだ新任なんで、あまりでしゃばった真似すると先輩教師に睨まれるんで……」

「どこの会社でも一緒なんですね。

分かりました。もちろん黙っておきますので、ご心配なさらないで下さい」


苦笑いを浮かべる俺に、父親がふっと笑みを零す。

憑き物でも落ちたような、穏やかな微笑み。


安心した俺も笑顔を返した。



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