甘い魔法―先生とあたしの恋―
※※※
「……」
翌朝の食堂。
先生が下りてきても、あたしは挨拶もしないで箸を進めていた。
あからさまに不機嫌を示しているあたしに、先生は苦笑いを浮かべてから、棚からカップを2つ取ってコーヒーを作り始める。
いつもはあたしが入れるコーヒーを、今日は先生が入れてあたしの前にコトンと置く。
見つめる先で、シュガーとミルクまで入れられたコーヒーが白い湯気を立てる。
「……」
「なんだよ、まだ機嫌直んねぇの?」
「……先生が悪いんだもん」
「ちょっとからかっただけだろ? 悪かったって。でも、そんな怒るって事は……先を期待したとか?」
「……っ」
カっと赤くなった頬に気付いて、あたしは目を逸らす。
昨日、あの後、あたしは先生を無理矢理部屋から追い出した。
余裕を見せる先生に、どうしても自分の気持ちの方が大きく感じてしまって。
それが、少しだけ悲しくなって。
寂しくなって……。
いっつも余裕ばっかり見せる先生の気持ちが、まだよく掴めなくて。
あたしと先生の間にある距離に、少し不安になった。
啓太の時は、もっともっと不安だらけだったのに……。
先生の優しさに甘えて、わがままになった自分に気付いて、気持ちを重くする。
「あんまり拗ねてると今日の授業中いじめてやるかな」
「……いいよ? あたし数学成績いいもん。
今授業でやってるとこなら絶対答えられるし」
自信満々に可愛げなく言うと、先生は意味深に笑って、「へぇ……」と一言だけ呟いた。