甘い魔法―先生とあたしの恋―
「なんだよっ、うぜぇな」
「だって……、啓太が来いって言うから来たのに……」
「だからもういいつってんじゃん。帰れよ」
「そんな言い方っ……」
……―――― パンッ!
「おまえ、まじでうぜぇ」
一瞬、何が起きたのか分からなかったけど、何度も経験した衝撃に、すぐに頭は通常に働き出す。
左頬にヒリヒリとした痛みが広がって……視線を移すと、啓太の後ろ姿は小さくなっていた。
ぼけていく視界の中で、一瞬だけ啓太が振り向いた気がしたけど……。
浮かび上がる涙にあたしはすぐに俯いた。
目撃していた通行人からの視線が、あたしに集まる。
痛みからなのか、それ以外の理由なのか。
涙が滲んできてたけど、ここで泣くなんて惨めな事は理性が止めた。
腫れ上がる前に帰らなくちゃ……。
そんな事を冷静に思ってから、見えなくなった啓太の後ろ姿を一度振り返って……寮に向かって歩き出した。
いつからこんなんになっちゃったのかな……。
最初は……ただ楽しくて、嬉しくて。
それだけだったのに。
啓太だって優しくて、いつもあたしの事を考えてくれてたのに。
最初から、そういう気質があったのなら……それを見極められなかったあたしがいけないのかな。