甘い魔法―先生とあたしの恋―



『生活費が早めに用意されてたのは、親父さんなりに市川の事心配しての事なんじゃねぇかな。

市川がいつ金が必要になって帰ってきてもいいように、用意してたんじゃないかって、俺は思う』


今朝、あの後先生が言った言葉が頭に浮かぶ。

突然そんな事言い出した先生は、なぜだか優しく微笑んでいて……自信ありそうに続けた。


『子供が親を思うように、親だって子供の事思ってんだよ。きっと』

『……昨日、何かあったの?』

『……いや、ないけど。なんとなくそう思ったから言っただけ』


先生がなんでそんな事を急に言いだしたのかは、考えたけど結局よく分からなかった。


先生が施設で育った事を知ってるから、なるべく親の事は話さないようにしてたのに、なんで先生がそんな事を話題に出したのか……。


あたしのご機嫌取りかとも思ったけど、先生はそんな事するタイプじゃないし。


それ以上追及する事のできないあたしに、先生は笑顔を向けた。



――キーンコーン……、


5時間目が始まるチャイムが鳴ると同時に、先生が教室に入ってきた。


「席つけー」


教師ぶってる先生は、やっぱりまだ慣れなくて、あたしは先生の姿を目で追う。

こっそりと見ていたハズなのに、先生は教卓に行くまでの間、あたしに視線を向けて……そしてにっと口の端を上げた。


「市川、んなとこにキスマークつけてんなよ。

どんだけ独占欲の強い男と付き合ってんだよ、おまえ」

「?!」


先生の言葉に、あたしはもちろん、クラス中の視線があたしの首元に注がれて……。


「あぁあ!! 本当だ!! ちょっと、なにそれ、実姫!!」

「なに、ちょっと! 実姫彼氏いたの?!」

「えっ……や、いない……」

「嘘っ!! ちょっともー……放課後、事情聴取決定ー」



あまりの騒がしさに、隣のクラスから苦情が来たのは、言うまでもない。




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