甘い魔法―先生とあたしの恋―
「しなかったんだろ?」
先生の真剣な目に、ドキドキしながらも気まずくて目を伏せた。
「……してないよ。する訳ないじゃん。
先生が意地悪したから仕返ししただけ」
先生はほっとしたように笑みの乗せたため息をついて、あたしの肩を離した。
「それ、キスマーク。
みんなの前で言ったのは、市川に変な男が寄ってこないように。
言っただろ? 俺、独占欲強いんだって」
先生はふっと笑みを零しながら、あたしの頭をぽんぽんと撫でて……一瞬だけ真面目な顔を向けてから自分の部屋に入った。
残されたあたしは、まだドキドキする胸が収まらなくて。
赤く火照った顔を両手で覆った。
「……ずるいよ」
授業の仕返しにからかったのはあたしなのに、それ以上にドキドキさせられてしまう。
だけど、独り言を呟きながらも、あたしの頭は先生の一瞬見せた表情でいっぱいだった。
どこか寂しそうな……、痛いくらいに真剣な目。
その先が、何を見つめているのか気になって……。
あたしの小さなため息が廊下に落ちる。
その夜、お父さんから電話があった。
『1時間だけ仕事空けたから』
電話に出るなり、いきなりそんな事を言ったお父さんに、あたしは少し緊張しながら口を開く。
「三者面談、来られるって事……?」
『ああ』
久しぶりに聞くお父さんの声。
別に聞きたいなんて思った事なかったのに、聞いた途端に、胸の奥が熱くなるような懐かしさを感じた。
「ありがと……じゃ学校で……」
『あ、実姫』
切ろうとしたあたしを、お父さんが止める。
その声に、離しかけてたケータイを耳に当て直す。